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松山地方裁判所 昭和36年(ワ)99号 判決

原告 首藤忠

被告 愛媛県知事

主文

被告は原告に対し、金三五四、一六八円およびこれに対する昭和三六年三月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し一、四六一、三二二円およびこれに対する昭和三六年三月六日以降右金員支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決をもとめ、その請求原因として、

一、原告は別紙目録記載の各土地を所有していたところ、その一部である一、一六六坪八合一勺(以下本件収用地と称する)につき、訴外愛媛県収用委員会(以下委員会と称する)は、昭和三六年二月一八日、起業者を被告、相手方を原告とする二級国道松山小松線周桑郡壬生川町大字三津屋地内の道路改築事業のための土地収用についての裁決申請事件において、右一六六坪八合一勺の土地を右事業のため収用することとし、損失の補償額を五四〇、三九八円(その内訳は別紙損失補償額明細表記載のとおり)、収用の時期を同年三月五日とする旨の裁決をし、同裁決書は同年二月二四日原告に送達された。

二、ところで右補償額は、昭和三五年五月頃、被告が起業者として、事業に必要な近隣の農地を示談によつて買収した際の価格に準じて決定せられたものであるが、本件収用地の収用裁決時における価格は坪当り一二、〇〇〇円以上で、本件収用地全体の価格は二、〇〇〇一、七二〇円以上である。すなわち、本件収用地を含む周辺の地価を、被告が右近隣農地を示談により買収した当時と本件裁決時とにおいて比較すれば、その間における東伊予道路(有料道路)に接続する本件道路工事の進捗と、壬生川町における大工場地帯造成の機運を反映して、異常に昂騰していることは、その地方において顕著な事実であるところ、土地収用における損失補償は、土地収用法第七二条の規定により相当の価格をもつてなさるべきものであるが、その価格中には、これを収容する事業の施行を期待することにより生じた価格の騰貴をも含むべきことは、学説、判例の一致するところである。なお、被告は本件収用地の北側に隣接し、収用裁決時には本件収用地も完成間近い本件国道に面した宅地(昭和三四年一一月三日すでに地目変更していた)で、原告経営の製材工場敷地として使用され、県道から僅か四〇メートル離れたのみであつたから、本件収用地と条件を同じくする訴外壬生川農業協同組合(以下農協と称する)所有地の一部を、昭和三五年三月一六日坪当り一六、〇〇〇円、一四、〇〇〇円、一二、〇〇〇円の三種類の単価で買収し、その残りの土地を同年九月三〇日訴外愛媛土地株式会社が坪当り一六、五〇〇円で買受けていること。別紙目録(一)記載の本件収用地を含む三九九坪五合八勺については、本件収用裁決時前から、広島銀行に対し、極度額合計金一五、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権が設定され、目録(二)記載の本件収用地を含む三九八坪五合六勺については、愛媛相互銀行および伊予銀行に対し、極度額合計四、〇〇〇、〇〇〇円の根抵当権が設定されて、いずれも極度額いつぱいの貸出がなされているが、銀行の担保物件評価は通常時価の六割程度であるから、これは右各銀行が本件裁決時前において、本件双用地の価格を坪当り一二、〇〇〇円以上に評価していたことを表すこと等は、本件収用地の収用裁決時における価格が坪当り一二、〇〇〇円以上であることを示す重要な参考基準となるものである。

よつて、本件収用地全体の価格として算定した右二、〇〇一七二〇円から裁決による補償額五四〇、三九八円を差し引いた金一、四六一、三二二円とこれに対する収用日の翌日である昭和三六年三月六日以降右支払済みまで年五分の割合による損害金の支払をもとめると、述べ、

被告の本案前の答弁に対する主張として、本件土地収用事件において、起業者が被告愛媛県知事であることは明らかであり、従つて起業者である愛媛県知事を被告とする本訴は、なんら被告適格を誤つたものでない。なお本件国道改築事業のようないわゆる公費官営事業における損失の補償に関する不服の訴については、国又は費用負担者である公共団体のいずれを相手としても差支えないことは大審院判決の明言するところであるから、この点から言つても本訴の被告適格に誤りはないと述べ、

証拠として、甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし一九、第五号証の一、二、第六ないし第一〇号証を提出し、証人藤原勇平、高橋九助、青野末吉い檜垣頼蔵、不二親光、山内善補、三好晋、中原豊之進の各証言、原告本人尋問の結果、鑑定人一色弥満登、中原豊之進の各鑑定結果、検証の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

理由

(本案前の主張についての判断)

原告は、愛媛県知事を被告として本訴を提起し、被告は国を被告とすべきで、愛媛県知事に被告適格なしと主張するが、二級国道の管理者は原則として、国の機関としての都道府県知事であり(道路法第一八条一項参照)、都道府県知事は道路管理者たる地位にもとずいて、国の機関としての立場で起業者となり、二級国道の新設、改築工事を行うものであるが、(同法第一三条一項)、道路法第四九条によれば、道路の管理に関する費用すなわち道路の新設、改築等に要する費用、これらに伴う損失補償に関する費用等は原則として二級国道にあつては、道路管理者である都道府県知事の統管する都道府県が負担することとなるに反し、土地収用法第六八条によれば土地収用による損失の補償は起業者においてなす旨規定しているのであつて、土地所有者等は、土地収用の補償金額に関する不服の訴においては、起業者である国の機関としての都道府県知事、費用負担者である都道府県のいずれを被告としても差支えない(大審院昭和五年一月二九日、同年二月二二日判決参照)と解すべきであるから、愛媛県知事を被告とした本訴も、右趣旨において、正当であるといわなければならない。

(本案についての判断)〈省略〉

(裁判官 伊東甲子一 仲江利政 鴨井孝之)

目録〈省略〉

損失補償額明細表〈省略〉

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